当院の麻酔管理について
手術を受けるうえで、多くの飼い主様が心配されることのひとつが「麻酔」だと思います。
「麻酔は大丈夫ですか?」
「高齢ですが、麻酔に耐えられますか?」
「麻酔のリスクはどのくらいありますか?」
実際に、診察の中でもこのようなご質問をいただくことは少なくありません。
なんなら心臓病があるから、腎臓病があるから、高齢だからという理由だけで麻酔はかけられないと言われて手術を諦めてしまう方もいます。
当院では、非常勤獣医師で麻酔科医の長濱正太郎先生に来てもらい、
実際の臨床例での麻酔管理や座学での指導をもとに、日々の麻酔管理を行っています。

手術そのものだけでなく、麻酔管理の質を高めることは、動物たちの安全を守るうえで手術の手技を磨くこと以上非常に重要だと考えています。
当院の麻酔管理の特徴
当院では、バランス麻酔 を基本とした麻酔管理を行っています。
バランス麻酔とは、ひとつの薬剤に頼るのではなく、複数の薬剤や方法を組み合わせることで、麻酔薬の使用量をできるだけ抑えながら、鎮痛・鎮静・筋弛緩・循環管理をバランスよく行う考え方です。
特に当院では、痛みの管理をとても重要視しています。
原則として、手術内容や動物の状態に応じて、
・NSAIDs
・オピオイド
・神経ブロック
・局所麻酔薬による浸潤麻酔
などを組み合わせ、動物が感じる痛みをできる限り抑えられるように麻酔プロトコールを組み立てています。
特に、神経ブロックは重要な鎮痛手段のひとつです。
手術部位に関わる神経の伝達を一時的に抑えることで、術中・術後の痛みを軽減し、全身麻酔薬や鎮痛薬の使用量を減らせる可能性があります。

写真は硬膜外神経ブロックです。
痛みは、麻酔中の鎮静薬の増量を必要とし結果的に、血圧や心拍数、呼吸、回復の質に影響します。
つまり鎮痛をしっかりするというのは麻酔の安全性を高めるために重要な要素です。
麻酔前カンファレンスとチームでのリスク共有
当院では、手術前に麻酔前カンファレンスを行い、症例ごとのリスクをチームで共有しています。
年齢、基礎疾患、心臓病の有無、血液検査、画像検査、手術内容、予想される出血量、術中に起こり得る変化などを確認し、麻酔計画を立てます。
麻酔は動物の状態を常に評価しながら、必要に応じて薬剤や輸液、循環管理を細かく調整していく行為です。
そのため、事前にリスクを把握し、チーム全体で共有しておくことが非常に大切です。
術中モニタリングについて
当院では、麻酔中に以下の項目を必ずモニタリングしています。
・酸素化
・換気状態
・心電図
・血圧
・体温
・尿量
さらに、術前や術後に心臓エコーを用いて心機能や循環血液量を評価しております。
また、必要に応じて観血的血圧測定も実施します。

観血的血圧測定とは、動脈に細いカテーテルを設置し、リアルタイムで血圧を測定する方法です。
通常の血圧計よりも細かく、正確に血圧変動を把握できるため、循環状態の変化に素早く対応しやすくなります。
繊細な薬剤管理
症例によっては、鎮痛や循環管理に関わる薬剤を複数種類、微量点滴として使い分けることがあります。
場合によっては、4〜5種類の薬剤を組み合わせながら、血圧、心拍数、痛みの反応、麻酔深度などを細かく確認し、必要に応じて調整していきます。

これは非常に繊細な管理です。
同じ手術であっても、若く健康な動物と、高齢で心臓病を持つ動物では、必要な麻酔管理はまったく異なります。
当院では、「この手術だからこの麻酔」という画一的な管理ではなく、症例ごとに麻酔計画を考えることを大切にしています。
麻酔の“中身”にも目を向けてほしい
動物病院で手術を受ける際、飼い主様が気にされることの多くは、手術費用や麻酔費用かもしれません。
もちろん、費用はとても大切なことです。
しかし同時に、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは、麻酔管理の内容は、動物病院ごとに大きく異なる ということです。
どのような鎮痛を行っているのか。
どのようなモニタリングをしているのか。
術中に状態が変化したとき、どのように対応しているのか。
心臓病や高齢動物に対して、どのような準備をしているのか。
これらは、外からはなかなか見えにくい部分です。
飼い主様にとっては、「麻酔代」という金額だけが見えやすいかもしれません。
しかし本当に大切なのは、その麻酔の中で何が行われているかです。
麻酔に絶対の安全はありません。
どれだけ慎重に管理しても、リスクをゼロにすることはできません。
しかし、リスクを下げるためにできることはあります。
痛みを適切に管理すること。
血圧や呼吸、体温、尿量を確認すること。
心臓の状態を評価すること。
症例ごとに薬剤を使い分けること。
異常が起きたときに早く気づき、早く対応すること。
これらの積み重ねが、麻酔を少しでも安全に近づける努力だと考えています。
大切な家族を守るために

「その麻酔は、本当に安全に近づける努力がされていますか?」
これは、私たち自身にも常に問い続けていることです。
万が一、麻酔中にトラブルが起きたとき、それが完全に避けられないものだったのか。それとも、より適切なモニタリングや管理によって防げた可能性があったのか。その差は、麻酔の準備、監視、鎮痛、管理の質によって変わることがあります。
だからこそ、飼い主様には、麻酔の費用だけでなく、麻酔の中身にも目を向けていただきたいと思っています。
なかなか日々の説明の中でここまでの内容を一件一件全てを説明することは時間的に難しく、コラムでお話しさせていただきました。
大切な家族の命を守るために、どのような麻酔管理が行われているのか。
どのように痛みを抑えているのか。
どのように状態を監視しているのか。
どのようなリスク管理をしているのか。
世界でも最高峰の麻酔管理を目指してスタッフ一同精進していきます。
ぜひ、その部分にも関心を持っていただければと思います。
手術の技術だけでなく、麻酔・鎮痛・周術期管理まで含めて、動物たちにとってより安全で負担の少ない医療を提供できるよう努めてまいります。
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