胃捻転を知ること、そして予防するという選択肢
犬の胃捻転は「朝まで待ってはいけない?」
先日、当院に胃拡張・胃捻転症候群(GDV)を発症したワンちゃんが来院しました。

胃捻転は、胃がガスなどで大きく膨らみ、さらに胃そのものがねじれてしまう病気です。胃への血流が障害されるだけでなく、全身の血液循環にも大きな影響を与え、胃壁の壊死、不整脈、ショック、凝固異常などを引き起こすことがあります。
今回のワンちゃんも緊急で治療・手術を行いました。
胃の壊死は無く、脾臓の虚血が重度のため、脾臓摘出と予防的胃固定を同時に実施。
幸い、無事に手術を乗り越え、術後は凝固異常や肝障害が重度に見られましたが、なんとか回復して退院することができました。
胃捻転は命に関わる病気ですが、早く気づき、適切な治療につなげることができれば救命できる可能性は十分にあります。近年の130頭の報告でも、手術を受けたGDV症例の86.4%が生存退院しています。(PubMed)
裏を返すと15%程度の犬が胃捻転を発症すると死亡してしまうということになります。
また、手術は皮膚を大きく切開して行うため、動物にとっては負担のとても大きな手術です。

夜中に届いていた、もう一つの連絡
実はその症例とは別の日、夜中に知人から連絡が入っていました。
「知り合いの犬が胃捻転かもしれない。でも夜中で、どこの病院へ行けばいいかわからない。朝まで待って病院へ行くしかないと言っているけど、どうしたらいい?」
という内容でした。
僕は寝ていて、その連絡に気づいたのは翌朝でした。
その子は無事だったのだろうか。今でも気になっています。(→後日談:翌朝手術して無事に回復したそうです)
この出来事もあり、犬を飼っている方にはぜひ、胃捻転について知っておいてほしいと思いました。
胃捻転は「朝まで様子を見る」病気ではありません
胃捻転で特徴的なのは、何度も吐こうとしているのに、何も出てこないという症状です。
そのほか、急にお腹が張ってくる、よだれが増える、落ち着かずウロウロする、呼吸が速くなる、急にぐったりする、といった症状がみられます。
胃がねじれた状態が続くほど胃壁への血流障害が進み、胃の一部が壊死することもあります。
そのため、胃捻転が疑われる場合は、
「朝になったら、かかりつけの病院へ行こう」ではなく、その時点で診察できる動物病院を探してください。
しかしながら、広島では夜間に胃捻転の緊急手術を行える施設はとても限られていて、朝まで待って手術、というのは仕方ないことかもしれません。
どんな犬に多い?
胃捻転は特に、大型犬・超大型犬や胸の深い体型の犬で多く発生します。
グレート・デーン、ワイマラナー、セント・バーナード、ジャーマン・シェパード、スタンダード・プードル、レトリーバー系犬種などは、以前からリスクの高い犬種として知られています。
さらに最近、Dog Aging Projectに登録された47,444頭を対象とした大規模研究が報告されました。
この研究では、40kgを超える大型犬、雄、純血種、痩せ気味の犬などでGDVのリスクが高く、さらにプードルおよびプードル系ミックスでもリスク上昇が認められました。(PubMed)
すべての犬で頻繁に起こる病気ではありませんが、リスクの高い犬では決して他人事ではありません。
胃捻転には「起こる前に予防する」という選択肢があります
そして今回、一番知ってほしいのがここです。
胃の一部をあらかじめ腹壁へ固定する「予防的胃固定術(prophylactic gastropexy)」という方法があります。
胃固定を行っても、胃にガスが溜まる「胃拡張」そのものを完全に防ぐわけではありませんが、命に関わる「胃の捻転」を防ぐことが可能です。
2023年には、予防的胃固定を行った766頭の成績が報告されています。長期追跡できた446頭では、中央値876日の観察期間中、GDVを発症した犬は0頭でした。また、胃固定部位に直接関連した合併症は766頭中3頭、**0.4%**でした。(PubMed)
もちろん、どんな手術にもリスクがあり、すべての犬に胃固定が必要というわけではありません。
しかし、GDVの発症リスクが高い犬では、発症して緊急手術になる前に予防するという考え方があります。
腹腔鏡を使って、小さな傷で予防することもできます
現在では、大きくお腹を開けなくても、腹腔鏡を用いて予防的胃固定を行うことができます。
腹腔鏡補助下予防的胃固定術を行った49頭の研究では、追跡できた44頭を中央値698日観察し、GDVを発症した犬は0頭でした。(PubMed)
当院でも、腹腔鏡を用いた低侵襲な予防的胃固定術を行っています。
傷口は5㎜程度の傷がたったの3カ所で実施可能です。
大型犬や胸の深い犬、プードルなどリスクの高い犬では、避妊・去勢手術など、もともと全身麻酔を行う機会に合わせて予防的胃固定を行うことも一つの選択肢です。
「起きてから助ける」だけでなく「起きる前に防ぐ」
今回、当院で治療したワンちゃんは、幸い無事に回復してくれました。
でも、胃捻転は発症すれば時間との勝負になる病気です。
夜中でも、休日でも起こります。
だからこそ、リスクの高い犬を飼っている方には、まず胃捻転の症状を知り、いざという時に受診できる病院を確認しておいてほしいと思います。
そしてもう一つ。
「起きてから助ける」だけではなく、リスクの高い犬では「起きる前に防ぐ」ことも考えてほしい。
「うちの犬は胃捻転のリスクが高い?」
「予防的胃固定をした方がいい?」
「腹腔鏡だとどんな手術になる?」
気になる方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
McCord MA, et al. Gastric dilatation-volvulus is associated with Poodle breeds, increased body size, and male sex, but not primary diet type or anxiety in the Dog Aging Project cohort. J Am Vet Med Assoc. 2026. PubMed
de la Vega M, Ralphs SC. Outcomes and complications of prophylactic incisional gastropexy in 766 dogs (2009–2019). BMC Res Notes. 2023;16:300. PubMed
Loy Son NK, et al. Long-Term Outcome and Complications Following Prophylactic Laparoscopic-Assisted Gastropexy in Dogs. Vet Surg. 2016;45:O77–O83. PubMed
Olimpo M, et al. Gastric Dilatation-Volvulus in Dogs: Analysis of 130 Cases in a Single Institution. Animals. 2025;15:579. PubMed
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