犬の胆嚢疾患【胆泥症、胆石症、胆嚢粘液嚢腫】と診断されたら
🐶 予防的胆嚢摘出という選択について
犬では、胆嚢の病気は比較的よく見られます。
胆嚢粘液嚢腫や胆泥の貯留、胆嚢の拡張といった異常は、日常診療でも珍しいものではありません。
これらの変化は初期には症状がほとんど出ないことも多く、元気や食欲も普段通りであるため「ウルソなどの内服で様子を見ましょう」と判断されることも少なくありません。
しかし、胆嚢疾患で最も問題となるのは破裂や胆管閉塞です。
胆嚢が破裂すると、腹腔内に胆汁が漏れ出します。
胆汁自体は化学的な炎症(胆汁性腹膜炎)を引き起こしますが、そこに細菌感染が加わると、状況は一気に悪化します。
実際に報告されているデータでは、
細菌性腹膜炎を伴う胆嚢破裂の周術期死亡率:55〜73%(Ludwig 1997 / Mehler 2004)とされています。
さらに問題なのは、破裂が起きていても診断が簡単ではないことです。
Wilsonら(2021)の報告では、破裂症例の40%でビリルビンが正常でした。
また、Choiら(2014)は、超音波所見と破裂の有無には相関がないと報告しています。
つまり、血液検査でもエコーでも「破裂を確実に見抜くことは難しい」というのが現実です。
性能の良いエコーと普通の腕があれば見分けれるとは思うのですが・・・
Pankratzkyら(2019)の報告では、胆嚢粘液嚢腫89例の生存期間は
外科治療実施群:1802日
内科治療実施群:1340日
内科治療後にやむ負えず外科を実施した群:203日
とされており、内科で引っ張ってからの手術は明らかに予後が悪いこと
早期の外科介入が予後を良くする可能性が示されています。
「無症状=安全=放置でOK」ではないということです。
これらのエビデンスを踏まえ、当院では
「安全手術できるタイミングでの低侵襲に実施可能な予防的胆嚢摘出」には意義があると考えています。
特に以下のような所見が揃う場合は、手術を検討します。
非可動性の胆泥貯留
胆嚢の拡張
粘液の貯留(粘液嚢腫)
肝酵素の上昇
内科治療により良化しない場合
当院では胆嚢摘出を完全腹腔鏡下に実施しています。
腹腔鏡手術は開腹手術に比較し傷が小さい、術後の回復が早い、身体への負担が少ない、繊細で確実な手術手技が実施可能といったメリットがあります。
人医療においては殆ど全ての胆嚢摘出は腹腔鏡で実施されています。
当院では現在まで約20例において腹腔鏡下胆嚢摘出を実施し
大きな合併症なし開腹移行なしと安定した成績を得ています(今後、学会発表予定)
先日も、一日の間に予防的胆嚢摘出:2例 胆嚢破裂症例:1例の胆嚢摘出を腹腔鏡下に実施いたしました(頑張りました…💦)



胆嚢破裂を起こしていた症例では腹腔内臓器の癒着が酷かったのですが、丁寧な剥離と熟練のチームワークで無事に完遂することが出来ました。術後は、3日ほどの内科管理を実施し、無事に退院することが出来ました。
予防的胆嚢摘出を実施した2症例は日帰りと翌朝退院しそれぞれ元気に過ごしてくれています。
腹腔鏡手術でなければ当日からご飯をバクバク食べるとかは難しいと思います💦
✅ まとめ
胆嚢疾患において重要なのは、
「症状が出てからでは遅い、その前に判断すること」です。
胆嚢破裂を起こすと致死率が非常に高い
破裂は検査で見抜けないことがある
破裂は突然やってくる
内科治療で改善がない場合、引っ張るほど予後は悪化する可能性がある
そのため「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「安全に手術できる今が最適なタイミングかもしれない」という視点も大切であると考えています。
当院では定期的な超音波検査と血液検査を実施しながら、最適なタイミングを飼い主様と相談しております。
開腹だと侵襲性が大きいので早期の予防的摘出に僕は反対ですが、腹腔鏡下であれば話は別です。
広島エリアでは、
腹腔鏡で胆嚢摘出を実施している施設はまだ多くありません。
当院では、低侵襲かつ安全性の高い胆嚢手術を提供することを大切にしています。
「まだ元気だから様子を見る」のか「安全なうちに治療する」のか
この判断が、その後の経過を大きく左右する可能性があります。
胆嚢疾患と診断され漠然と改善のない内科治療を続けている患者様、もし予防的胆嚢摘出が気になる場合には、是非ご相談お待ちしております。
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